大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和26年(オ)384号 判決

本件において被上告人と訴外永井孝雄との間に本件農地一町歩について賃貸借の合意解除が成立したのは昭和二二年二月二五日であることは原判決の確定した事実である、(原判決理由中に控訴人とあるのは被控訴人の誤記と認める)そしてその当時施行の農地調整法九条三項、附則三項によると農地の賃貸借の当事者が賃貸借の解除若は解約を為し又は更新を拒もうとするには地方長官の許可を受けなければならなかつたのであるがその後昭和二二年一二月二六日法律第二四〇号による同条改正規定によると農地の賃貸借の合意解約についても同様許可を要することになつたのである、ところで賃貸借の解除又は解約ということは一方的意思表示で契約を解消させることをいうのであるから当事者の合意による解約はこれを含まないのであるといわなければならない、従つて前記改正前の農地調整法九条三項にいわゆる賃貸借の解除若は解約には合意解約を含まないものと解すべきである、然らば前記改正法律施行前に成立した本件農地の合意解約については地方長官の許可を要しなかつたものといわなければならないのであつて右と同一趣旨にいでた原判決は正当であるそれゆえ論旨は理由がない。

よつて民訴四〇一条八九条九五条により主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見である。

(裁判官 霜山精一 栗山茂 小谷勝重 藤田八郎 谷村唯一郎)

右上告代理人弁護士岩沢誠の上告理由

原判決は法令の解釈を誤りこれに違反した違法がある。

原判決理由によれば「北海道中川郡池田町字高島九十五番地の内畑一町歩は控訴人が北海道旧土人保護法第一条により国から無償で交付を受けた農地であるところ、控訴人がこれを含めて農地五町歩を訴外永井孝雄に賃貸していた事実、控訴人が同人を相手方として釧路地方裁判所帯広支部に小作調停を申立て昭和二十二年二月二十五日前記一町歩について控訴人と同人との間の賃貸借を合意解除し同人は直ちに右土地を返還する旨の調停が成立し控訴人が直ちに右土地の返還を受けた事実及び控訴人が昭和二十三年五月七日被控訴人に対して農地調整法第九条第三項による右土地の農地の賃貸借の解約許可申請をし、これに対して被控訴人が同年七月三十一日子調整第三六二九号指令をもつて不許可の処分をし、右指令書が同年八月十三日控訴人に送達された事実は当事者間に争がない。ところで右小作調停が成立した当時施行の農地調整法第九条第三項、附則第三項によると、農地の賃貸借の当事者が賃貸借の解除又は解約をし又は更新を拒もうとするには地方長官の許可を受けなければならなかつたところ、その後昭和二十二年十二月二十六日法律第二百四十号によると同条改正規定によると、農地の賃貸借の合意解約についても同様許可を要することが明らかであるから、本件小作調停による賃貸借の合意解除については知事の許可を要しなかつたものといわなければならない。」と説示して上告人の主張を排斥しているが、これは法令の解釈を誤つたもので違法であるとしなければならない。

本件の小作調停は、原判決説示の如く昭和二十二年二月二十五日被上告人と訴外永井孝雄間に成立したものでありこの当時は農地賃貸借の合意解約について地方長官の許可を必要とする旨の法令がやゝ明確でなかつたことは事実であるが、原判決説示の様に知事の許可を全く要しなかつたものと解することはできない。

農地調整法第九条第三項には「解除」「解約」「更新拒絶」の場合に予じめ市町村農地委員会の承認(同法附則第三項により知事の許可)を要する旨を定めたのみであつて特に「合意解約」を排除したとゆう趣旨は何等これを認めることができない。加之この規定の趣旨は地主とゆう優越した地位に基く圧力を以てする農地の不当な取上を禁止しようとするものであるから、「合意解約」の場合でもその合意が真に小作人の自由任意に遽るものであるかどうかについて予め許可を要するものと解することが農地調整法の立法の趣旨に合致するものとゆうべきである。

(同趣旨我妻栄、加藤一郎共著農地法の解説二四八頁)しかるに、原審はこゝに理解を及ぼすことなく、単に昭和二十二年十二月二十六日法律第二百四十号農地調整法改正により「合意解約」についても知事の許可を要する旨の明文が現われたことの一事により、その以前においては知事の許可を要しなかつたものと即断したことは正に法令の解釈を誤つたものであり、破毀せらるべきものと信ずる。

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!